30.12.16

トライアンフ 水冷 ボンネビル T120試乗!

今年最後の更新は、「クラシック・ブリティッシュバイク乗りによる、新型ボンネビルのインプレッション」シリーズの最終編となる、T120 ボンネビルのインプレッションをお送りします。




新生・水冷のボンネビルの
懐の深さと、クオリティを味わう

Photo/Text Hiro 前田 宏行 (Rustless Production)

この水冷 T120 ボンネビルはストリートツインが持つ軽快さとは違うどっしりした存在感が印象的だ。ストリートツインのフロントはシングルディスクでキャストホイールとなっているが、ボンネビルのフロントはダブルディスクが奢られ、クラシックなスポークホイールとなっている。タンクの容量もストリートツインの12Lと比べ、こちらは14.5Lなので、タンクのシェイプが膨よか。ボンネビルはこれまでの空冷モデルと通じる佇まいのように思えた。

ストリートツインは900ccだが、こちらは1,200ccだ。クラシックな佇まいのバーチカル・ツインのモーターサイクルで「リッター超え」というのは何とも魅力的に思えてしまう。それだけの排気量があるにも関わらずスリムな仕上がりとなっているのは、まさにトライアンフのバーチカルツイン・エンジンの時代を超えた最たる魅力ではないだろうか。ストリートツインのボア・ストロークは84.6mm x 80mmで、ボンネビルは97.6mm x 80mm。ストロークは両車とも共通でボアのサイズが違うため、ボンネビルはよりショートストロークとなっている。圧縮はストリートツインの方がボンネビルより若干高く、更にスラクストンが高い設定となっているようだ。

ボンネビルのホイールベースはストリートツインやスラクストンよりも長く、キャスターアングルも一番大きくなっていることからも、ストリートツインの軽快さとは違う、安定感に重きをおいていることが分かる。乾燥重量もストリートツインと比べると実に26キロもの差があることからも、跨った時に感じる重量感も全く違うものだ。



エンジン周りの味付けも個性が分けてある。ボンネビルのシリンダーフィンのサイズはストリートツインとは若干違うようで、シリンダーヘッド同様にフィンの端面は金属の表情が生かされている。またロッカーボックス、エキパイのクランプやエキゾーストも上品なメッキ仕上げ。トライアンフのバーチカルツインには欠かせない、ピーシューター型のサイレンサーは「ボンネビル」には不可欠な装備と言える。後ろから見た際に「ハ」の時にサイレンサーが外に広がっているのは人によって好みが別れるかもしれない。上品さで言えば、クラシック・トライアンフ同様にまっすぐに後ろを向いている方が「らしさ」は漂うところでもある。シートやグラブレールの形状も、全体のバランスと良い塩梅。



ボンネビルのインジェクション部には60年代後半までトライアンフに採用されていた、アマル社の「モノブロック」というキャブレターを模したカバーが装着されている。エアフィルターもパンケーキ型と呼ばれるクラシックなものをベースとし、マニア心をくすぐられるところでもある。しかし、このカバーには特に機能が持たされていないことが惜しい・・・とも思ったが、それは欲張りすぎなのだろう。贅肉を出来るだけ削ぎ落としたストリートツインと、ステイタス性も重視し、ドレスアップされたボンネビル、という立ち位置。



それでは試乗のインプレッションを。

1速で優しく駆け出し、2速へと。スルスルスルっと、スムースにスピードに乗って行く。大排気量ならではの、背中をす〜っと押してくれるゆとり。これがリッターバイクである、新生ボンネビルが与えられた器の大きさと言える。押し引きはストリートツインと比べるとさすがに重たいが、走りだすとその重量をネガティブに感じることは皆無だった。ダブルディスクとなったフロント周りの重さも、短い試乗の間では特に不満を感じなかった。シングルディスクでも事足りそうな気もするが、排気量やタンデム走行時、そして長旅のことを考えると、あるに越したことはない装備だと納得。

発進時に、2速へ送り込みスロットルを元気に開けてみる。「加速感」は低速の力強さに溢れるストリートツインに軍配があがるように感じた。せわしなく操作するのではなく、あくまでジェントルに駆けることがT120には良く似合う。街中では5速に入れることは少なく、6速をメインに使用するのは高速巡航時ぐらいだろう。6速で80キロ弱で走行するともたつきがあるが、じわっと絞るようにアクセルを開けていくと、それに伴い大排気量のバーチカルツインが粘ってくれる。エンジン内部の爆発を感じながら、振動、音とともに速度がグングンとのってくる様を味わうのも、一つの楽しみだ。何と言っても1気筒あたり600ccなのだ。

タコメーターを装備する2連のメーターは、クラシックなスミスの「グレー・フェイス」と呼ばれるメーターを意識してあるようで、丸みを帯びたベゼルのカバーも良い雰囲気だ。ヘアライン仕上げのステー。そして重厚さを演出する1インチのハンドルバー。50年台から60年台前半の雰囲気を纏わせるには、このハンドル経がやはり肝だ。トップブリッジのハンドルクランプも、弱冠だが手前にオフセットするようになっており、60年台前半の別体トライアンフらしさが演出されている。



タンクはストリートツインよりも一回りほど大きなもので、上から見るとその違いは明確だ。ストリートツインで筆者が好きなポイントである、タンクの左右から見えるシリンダーヘッドの張り出しが、T120では見えない。この辺りは、クラシック・トライアンフのUK仕様4ガロンタンクのボテッとした感じと相通ずる物がある。ストリートツインのタンクは、60年台の後半のUS仕様の、カジュアルな印象を受けるナロータンクを想起させるものだ。

今回の試乗車のカラーはシンダーレッドで、陽の光にあたると表情が変化する深みのある色合いだ。信号待ちで目に入ってくるハンドル周り、そしてタンクのペイントの質感がとても高い。「美しいモーターサイクルに乗っているのだ」という嬉しさが湧き上がってきたことが印象的だった。




旅の相棒として、色々な景色の中を駆ってみたいと思わせられる。
誰かと競うような走りをする必要もないのだと、語りかけてくれる。
初心者でも、ベテランでもそれぞれの走りに歩み寄ってくれる。

賢く、美しい駿馬、それが21世紀のトライアンフ ボンネビルというモーターサイクルではないだろうか。



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トライアンフ神戸

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28.12.16

トライアンフ 水冷 ボンネビル スラクストンR試乗!

試乗から半年経ってしまいましたが、スラクストンRとT120 ボンネビルについての試乗記をお伝えしようと思います。


ストリート・カップ、ボバー、ストリート・スクランブラー、スラクストン(スラクストンRではない)、T100とかなりラインナップが増えました。だからこそ、最初に新型としてリリースされた、ストリートツイン・ボンネビル・スラクストンRという、これらの3型を基準とすることが、多様に広がるボンネビル・シリーズから自分に合った一台を見つける近道になるのかも、と思い試乗記の続編をようやく仕上げるに至りました。

では、今回はスラクストンRのインプレッションをお送りします。



「圧倒的なカリスマを放つ、カフェレーサー」


Photo/Text Hiro 前田 宏行 (Rustless Production)

スラクストンR(以下スラクストン)と対面すると、乗り手にもある種の「気合い」を求めてくる雰囲気を感じる。簡単には操らせてくれそうにない、という緊張感はスポーツ・バイクならではのものであり、すでに「カフェ・レーサー」としての佇まいへの及第点を送るところだ。

T120 ボンネビルには2種類の走行モードが用意されているが、スラクストンには「スポーツモード」が加わり3種類となる。どれほど違うものなのかと、試すまでは怪訝だったが2速に入れて、勢い良くスロットルを開けた途端、通常の「ロードモード」とは明確に違う獰猛な加速に、心臓の鼓動が思わず引っ張り上げられてしまった。



Yamaha SRのキャブ車で例えるならば、「レインモード」は負圧キャブ。「ロードモード」は強制開閉のCVやCRキャブ。そしてこの「スポーツモード」は加速ポンプ付きのFCR、と言えば分かりやすいだろうか。そしてこのスポーツモードこそ、スラクストンの真骨頂だ。加速と風に備え体を伏せる、そして右手でエンジンに鞭を打つと噴き出るように反応する加速。うわっと一気に縮まる目前の車との距離に、フロントブレーキを入力すると、スポンジが落下のショックを包み込むような感触で、あっという間に減速する。このパワーには、これだけのフォークやブレーキが必要な理由が良く分かる。伊達じゃない・・・忙しくギアを上げ下げし、低回転から引っ張るのか、高回転を維持しようとするのか、、、どんな加速を引き出してやろう、と誘惑されてしまう。6速、5速、4速と、ギアを足早に落としていく時のタッチも楽しいものだった。


とはいうものの、いつも目を三角にして走るわけにもいかない。そこで他の走行モードが活きてくる。レインモードは、マシンのパワーの出方をとてもマイルドにしてくれる。骨抜き、とも言えるほどだ。ツーリングの帰り道にゆったり走りたい時や、渋滞時などに重宝するだろう。それぞれの走行モードは、明確な味付けがあるので楽しみの幅を広げると共に、乗り手を労ってくれる有り難いものだと感じた。



クランクが軽量化されているということで、T120と比べると低速でのパンチは薄いように感じる。低回転で、ノタノタと走っていても全く面白くない。スポーツモードでは3千回転以下のことは考えない、一気にアクセルを回す。4千回転から6千回転ほどまで、あっという間に上昇し、その間のパワーフィールはやはり鳥肌ものだ。体をぐっとバイクと同化させるように、前かがみに自ずとなってしまう。その人車一体感がたまらない、これぞ「カフェ・レーサー」の真髄だと言えるだろう。



この「媚薬」を味わう分、心身は疲労する。それは「スポーツ」をしていると思えば当然だ。このマシンは、たらたらと走ることを許してくれない。いや、走ってはいけない。スパルタンがゆえの強烈なカリスマ性。新生ボンネビル・シリーズの頂点に、君臨するに相応しいマシンだと感服した。

*ディティール説明


・タンクのデザインも、当時のスラクストンに装着されたものが踏襲されているようだ。緑タンクのトライアンフは筆者のもの。1971年製のボンネビルで、カラーは独自のものだが「スラクストン」レプリカのタンクを装着している。



・ハンドルは、トップブリッジ下でクランプされているが、そこから立ち上がっているのでハンドル自体の高さは程良い。また、こうしたクリップ・オンハンドルは「スワンネック」と言われ、昔のレーサーに使用されたディティールであることもポイントが高い。



・タンクのキャップも、50〜60年代のレースマシンによく使用された、エノット社のワンタッチ式のものをベースとしてあるため雰囲気が良い。ちなみに、このデザインは特にカフェレーサーのマシンだけに使われたわけではなく、イギリスの競技用マシンにはオン・オフ問わず、良く見られたディティールであった。



・トップブリッジや、メーター周りの仕上げはスラクストンの品質を誇示するディティールの一つ。乗り手が頻繁に視線を送る所がゆえ、このコックピットが放つ金属の味わいは所有欲を存分に満たしてくれる。当時のアフターマーケットパーツの中で、重い鉄製のトップブリッジを変更するため、軽量なアルミ製のものが販売されていた。その着目点に拍手を贈りたい。



・リムのサイズは前後17インチだという。クラシックなレーサーや、カフェレーサーであれば前後19インチや、前19・後18が定番。リムの幅はSRのように細い方が当時風にはなるが、このスラクストンにそんなアプローチはナンセンス。何をもって「カフェレーサー」を乗り手に体現させるかが重要であり、単にレトロな数値だけのディティールを含むことに意味は感じない。そのため、このスラクストンRのバランスは、現代のカフェレーサーとして秀逸なものだ。いつもは上述したサイズのリムを持つ、クラシック・モーターサイクルに親しむ筆者だが、17インチというサイズへの違和感は感じなかった。
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トライアンフ神戸

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1.12.16

Rustless フォトギャラリー マン島


Rustless ウェブサイトのフォトギャラリーに「マン島 クラシックTT & マンクスグランプリ 2015」をアップしました。マン島と言えばTTレースが有名ですが、ヴィンテージマシンを駆るモーターサイクリスト達の姿や、豊かな島の景色をお楽しみいただければ幸いです。http://rustless-gb.com/

A new photo gallery 'Isle of Man, Classic TT and Manx GP 2015' has been added on Rustless website. http://rustless-gb.com/