新生・水冷のボンネビルの
懐の深さと、クオリティを味わう
Photo/Text Hiro 前田 宏行 (Rustless Production)
Photo/Text Hiro 前田 宏行 (Rustless Production)
この水冷 T120 ボンネビルはストリートツインが持つ軽快さとは違うどっしりした存在感が印象的だ。ストリートツインのフロントはシングルディスクでキャストホイールとなっているが、ボンネビルのフロントはダブルディスクが奢られ、クラシックなスポークホイールとなっている。タンクの容量もストリートツインの12Lと比べ、こちらは14.5Lなので、タンクのシェイプが膨よか。ボンネビルはこれまでの空冷モデルと通じる佇まいのように思えた。
ストリートツインは900ccだが、こちらは1,200ccだ。クラシックな佇まいのバーチカル・ツインのモーターサイクルで「リッター超え」というのは何とも魅力的に思えてしまう。それだけの排気量があるにも関わらずスリムな仕上がりとなっているのは、まさにトライアンフのバーチカルツイン・エンジンの時代を超えた最たる魅力ではないだろうか。ストリートツインのボア・ストロークは84.6mm x 80mmで、ボンネビルは97.6mm x 80mm。ストロークは両車とも共通でボアのサイズが違うため、ボンネビルはよりショートストロークとなっている。圧縮はストリートツインの方がボンネビルより若干高く、更にスラクストンが高い設定となっているようだ。
ボンネビルのホイールベースはストリートツインやスラクストンよりも長く、キャスターアングルも一番大きくなっていることからも、ストリートツインの軽快さとは違う、安定感に重きをおいていることが分かる。乾燥重量もストリートツインと比べると実に26キロもの差があることからも、跨った時に感じる重量感も全く違うものだ。
エンジン周りの味付けも個性が分けてある。ボンネビルのシリンダーフィンのサイズはストリートツインとは若干違うようで、シリンダーヘッド同様にフィンの端面は金属の表情が生かされている。またロッカーボックス、エキパイのクランプやエキゾーストも上品なメッキ仕上げ。トライアンフのバーチカルツインには欠かせない、ピーシューター型のサイレンサーは「ボンネビル」には不可欠な装備と言える。後ろから見た際に「ハ」の時にサイレンサーが外に広がっているのは人によって好みが別れるかもしれない。上品さで言えば、クラシック・トライアンフ同様にまっすぐに後ろを向いている方が「らしさ」は漂うところでもある。シートやグラブレールの形状も、全体のバランスと良い塩梅。
ボンネビルのインジェクション部には60年代後半までトライアンフに採用されていた、アマル社の「モノブロック」というキャブレターを模したカバーが装着されている。エアフィルターもパンケーキ型と呼ばれるクラシックなものをベースとし、マニア心をくすぐられるところでもある。しかし、このカバーには特に機能が持たされていないことが惜しい・・・とも思ったが、それは欲張りすぎなのだろう。贅肉を出来るだけ削ぎ落としたストリートツインと、ステイタス性も重視し、ドレスアップされたボンネビル、という立ち位置。
それでは試乗のインプレッションを。
1速で優しく駆け出し、2速へと。スルスルスルっと、スムースにスピードに乗って行く。大排気量ならではの、背中をす〜っと押してくれるゆとり。これがリッターバイクである、新生ボンネビルが与えられた器の大きさと言える。押し引きはストリートツインと比べるとさすがに重たいが、走りだすとその重量をネガティブに感じることは皆無だった。ダブルディスクとなったフロント周りの重さも、短い試乗の間では特に不満を感じなかった。シングルディスクでも事足りそうな気もするが、排気量やタンデム走行時、そして長旅のことを考えると、あるに越したことはない装備だと納得。
1速で優しく駆け出し、2速へと。スルスルスルっと、スムースにスピードに乗って行く。大排気量ならではの、背中をす〜っと押してくれるゆとり。これがリッターバイクである、新生ボンネビルが与えられた器の大きさと言える。押し引きはストリートツインと比べるとさすがに重たいが、走りだすとその重量をネガティブに感じることは皆無だった。ダブルディスクとなったフロント周りの重さも、短い試乗の間では特に不満を感じなかった。シングルディスクでも事足りそうな気もするが、排気量やタンデム走行時、そして長旅のことを考えると、あるに越したことはない装備だと納得。
発進時に、2速へ送り込みスロットルを元気に開けてみる。「加速感」は低速の力強さに溢れるストリートツインに軍配があがるように感じた。せわしなく操作するのではなく、あくまでジェントルに駆けることがT120には良く似合う。街中では5速に入れることは少なく、6速をメインに使用するのは高速巡航時ぐらいだろう。6速で80キロ弱で走行するともたつきがあるが、じわっと絞るようにアクセルを開けていくと、それに伴い大排気量のバーチカルツインが粘ってくれる。エンジン内部の爆発を感じながら、振動、音とともに速度がグングンとのってくる様を味わうのも、一つの楽しみだ。何と言っても1気筒あたり600ccなのだ。
タコメーターを装備する2連のメーターは、クラシックなスミスの「グレー・フェイス」と呼ばれるメーターを意識してあるようで、丸みを帯びたベゼルのカバーも良い雰囲気だ。ヘアライン仕上げのステー。そして重厚さを演出する1インチのハンドルバー。50年台から60年台前半の雰囲気を纏わせるには、このハンドル経がやはり肝だ。トップブリッジのハンドルクランプも、弱冠だが手前にオフセットするようになっており、60年台前半の別体トライアンフらしさが演出されている。
タンクはストリートツインよりも一回りほど大きなもので、上から見るとその違いは明確だ。ストリートツインで筆者が好きなポイントである、タンクの左右から見えるシリンダーヘッドの張り出しが、T120では見えない。この辺りは、クラシック・トライアンフのUK仕様4ガロンタンクのボテッとした感じと相通ずる物がある。ストリートツインのタンクは、60年台の後半のUS仕様の、カジュアルな印象を受けるナロータンクを想起させるものだ。
今回の試乗車のカラーはシンダーレッドで、陽の光にあたると表情が変化する深みのある色合いだ。信号待ちで目に入ってくるハンドル周り、そしてタンクのペイントの質感がとても高い。「美しいモーターサイクルに乗っているのだ」という嬉しさが湧き上がってきたことが印象的だった。
旅の相棒として、色々な景色の中を駆ってみたいと思わせられる。
誰かと競うような走りをする必要もないのだと、語りかけてくれる。
初心者でも、ベテランでもそれぞれの走りに歩み寄ってくれる。
賢く、美しい駿馬、それが21世紀のトライアンフ ボンネビルというモーターサイクルではないだろうか。
賢く、美しい駿馬、それが21世紀のトライアンフ ボンネビルというモーターサイクルではないだろうか。
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